名前がコールされると、スタンド全体から拍手がわき起こり、「お帰りなさい黒田」の大合唱となった。
日本人大リーガーが元の球団に戻るケースはさほど多くはない。黒田の場合、球団もファンもあきらめずに復帰へのラブコールを続け、黒田が応える形で実現した。
広島に入団した頃は、潜在能力は高いものの未完の投手だった。体も細いし、制球はバラバラ。自らの努力があったのはもちろんだが、加えて我慢強く使ってくれたチームのおかげで、広く張った根っこと太い幹を持つ大木に育った。広島が地域に密着し、お金がないため、育成に力を注いできた伝統を持っていた球団だったからこそ、自分が成長したことを、黒田は忘れなかった。
40歳ながら気合十分の力勝負を仕掛け、しかも力まず球を散らす。7年間の大リーグ経験でさらに完成度を高めた投球を、今季、広島のファンは味わえる。球団の体質と、選手の性格と、ファンの熱気。そのどれが欠けてもあり得なかった至福のシーズンが始まった。